株式会社が設置することができる機関の整理 (株主総会、取締役会、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社)
【株主総会】
会社の最高意思決定機関です。上場後には多くの一般株主が議決権の行使をできる環境の整備が求められ、将来的には英文による招集通知等の作成も必要となってきます。
【取締役会】
取締役及び監査役により構成される意思決定機関です。株主より経営を委任された立場である取締役の意思決定機関で、原則月1回以上の開催が必要となり、経営計画の進捗、開示予算と実績の差異分析等を踏まえて経営の主たる意思決定が行われます。
その上で、主に以下のいずれかの体制が上場準備会社には必要となります。
1.監査役会設置会社
監査役が経営監視機能として監査を行います。監査役は取締役会における議決権は有しておらず、あくまでも監視役に徹しています。
2.監査等委員会設置会社
指名委員会等設置会社の監査委員会のみを有するガバナンス体制で、取締役が監査等委員として経営監視を行います。監査等委員である取締役は業務執行は行いませんが、取締役である以上経営の意思決定にも参画し、同時に牽制役として監査を行います。
3.指名委員会等設置会社
指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3委員会を設置する制度です。それぞれの委員会を設置することでよりガバナンスの有効性を高め、取締役が独断で意思決定できない仕組みとなっています。役員を指名する指名委員会、報酬を決定する報酬委員会、監査する監査委員会がそれぞれ独立した立場から経営を執行する執行役を牽制します。各委員は全て取締役が担います。
なお、上場準備会社では監査役会設置会社が最も多く、次に監査等委員会設置会社が多いです。これは何名の社外取締役を招聘できるかにも左右されるためで、上場後の事業規模拡大に伴いガバナンス体制をその時々の適した体制に移行していくことが一般的です。
株主総会運営の留意点
上場準備会社の株主総会運営におけるポイントは以下の通りです。なお、基本的な考え方であり、これを逸脱した場合即上場が不可となるというわけではありません。
- ・原則として実際に開催すること。書面決議を多用しないこと。
- ・議事録を正しく整備すること。
- ・登記事項は漏れなく、適時に登記されていること。
- ・参加できない株主からは委任状を徴収すること。
取締役会運営の留意点
上場準備会社の取締役会運営におけるポイントは以下の通りです。なお、基本的な考え方であり、これを逸脱した場合即上場が不可となるというわけではありません。
- ・原則として毎月10営業日前後に開催し、タイムリーに業績の進捗管理を行うこと。
- ・議事録を正しく整備すること。議論の状況を残すこと。(議論の状況は直接議事録に書かなくても良い。)
- ・原則として事後決議は行わないこと。
- ・職務権限にしたがい、漏れなく意思決定がなされていること。
- ・原則として全役員が出席すること。
- ・監査役、監査(等)委員、が具体的に経営監視している状況が分かることが望ましい。
- ・必要があれば臨時取締役会を開催し、取締役会の有効性とスピーディーな意思決定を実現すること。
- ・書面決議を多用しないこと。
- ・常勤の取締役が3名以上選任されていることが望ましい。
監査役会運営の留意点
上場準備会社の監査役会(監査機能を有する監査委員会、監査等委員会を含む)運営におけるポイントは以下の通りです。
なお、基本的な考え方であり、これを逸脱した場合即上場が不可となるというわけではありません。
- ・原則として毎月取締役会と同日に開催すること。
- ・議事録を正しく整備すること。議論の状況を残すこと。(議論の状況は直接議事録に書かなくても良い。)
- ・原則として事後決議は行わないこと。
- ・原則として全監査役が出席すること。
- ・必要があれば臨時監査役会を開催し、経営監視の有効性を実現すること。
監査役監査について
監査役(監査を担当する役員として監査委員である取締役、監査等委員である取締役を含む)による監査役監査におけるポイントは以下の通りです。
なお、監査役の監査実務等については公益社団法人日本監査役協会が運営するサイトに参考情報があります。
日本監査役協会に加盟し会合等に出席することも知見を広げる一つの選択肢となります。
【目的】
株主より経営監視を委任された立場として、取締役の職務執行の状況を監査、監視する。
【監査実務】
- ・監査計画の立案:1年間の監査計画を立案します。原則として全子会社及び全部署全部門を監査対象とします。
- ・監査手法:書面監査、実地調査、ヒアリング、質問票等により監査を実施します。
- ・監査調書:監査の結果、また状況のメモとして監査調書を残します。
- ・主な監査項目:取締役会等重要会議への出席、主要帳票・会議体議事録・会計帳簿等の書類閲覧、取締役・部門長へのインタビュー、特定対象者へのヒアリング、現場の実地調査、規程・業務フローの閲覧、関連当事者取引・利益相反取引等の監査、コンプライアンス体制・リスク管理体制に関する監査、日常の業務に関する業務監査、内部監査との連携、監査法人との連携、内部通報制度の利用状況の確認など
【三様監査】
監査役は、内部監査部門と監査法人と連携し、監査状況の共有を行います。
これらの監査機能はそれぞれ監査する立場が異なるため、監査情報の共有のため最低でも四半期に一度のミーティングを実施します。
組織図について
会社には必ず組織図があります。組織図は会社の統制環境を表すものでもあり、取締役、従業員がどのような体制で職務を執行しているかが分かります。
当該組織体制において、以下の事項に留意が必要です。
- ・複数の部門責任者を兼任している者はいるか。
兼任は、主に人員が不足している時に生じます。
あまりにも兼任が多い場合には、まだ事業を継続していくだけの十分な人員確保、人員配置が行えていないと見なされてしまう可能性があります。
したがって、兼任は極力減らし、組織力を高める必要があります。
一方で、成長著しい企業であれば常に人材が不足していることも理解されますので、兼任者がいる場合にはその解消方針を明確にし、後任の採用や育成を進めていることを上場審査にて説明できるようにしましょう。
たとえば本部長と部長を兼任している場合があります。
同一分掌内で兼任が発生するもので「縦の兼任」と呼びます。
2つの組織の責任者を兼任しているケースはよくありますが、3つの組織、たとえば営業本部長兼第一営業部長兼第一営業課長という兼任はさすがに兼任が多すぎると判断されるでしょう。
また、別の分掌を兼任している「横の兼任」というものもあります。たとえば営業部長兼管理部長です。
このようなケースでは、その部門の役割によっては必ず兼任の解消が求められます。
事例の営業部長兼管理部長ですと、売上を作る攻めの部門責任者と、管理を司る守りの部門責任者の兼任となり、そこには利益相反関係が生じています。
したがって、部門の役割として利益相反関係が生じる部門長の兼任はできません。
取締役が部門長を兼任しているケースもあります。これも一概に解消せよというものではありませんが、上記の通り3つ以上の縦の兼任や、利益相反関係にある横の兼任は解消が必要です。
メンバーが複数の部門を兼任しているケースもありますが、これは権限者ではないため、上場審査において兼任理由の確認はなされますが、絶対に解消すべきというものではありません。
ですが、やはり営業部員と管理部員といった利益相反関係が生じる部門間の兼任は問題ないとする合理的な理由は存在しないでしょう。
- ・兼任と権限の不一致は起きていないか。
まれに、上位の役職者が、下位の職位の人の部下になっているような組織図を見ます。
たとえば、従業員の営業本部長の部下として、取締役兼営業部長が存在しているケースです。
一時的な立て直し等理由は様々かと思いますが、このような場合にはどちらが最終権限者か極めて不明瞭であり、適切な意思決定がなされない恐れがあります。
したがって、解消が必要となります。
- ・人のための部門が存在していないか。
ある組織に所属員が一人しかいない組織図も良く見ます。
たとえば、経理課長といいながら経理課には課長のその人しかいないケースです。
これは、経理を担当している人に何かしらの役職を与えたいという背景から組織が設けられていることが多いです。このような本質的には不要な組織、役職というのも解消すべきです。