中期経営計画・年度利益計画の策定  

中期経営計画・年度利益計画は上場審査においても極めて重要な事項です。

数値計画のみならず、定性的な目標やアクションプランなども踏まえ作成されるものです。

 
【年度利益計画】

中期経営計画の初年度が年度利益計画に該当します。

数値計画は月次まで展開して作成する必要があります。

事業内容によっては週次展開しているケースもあります。

売上、費用等のPL計画はもちろんのこと、その売上の前提となるKPIや管理指標も予算の一部として作成する必要があります。また、定量的な予算のみならず、具体的なアクションプラン、マイルストーンも同時に作成されると思います。

これら一式を年度利益計画と呼びます。

 
【中期経営計画】

複数年の事業計画で、3カ年の計画を立てている会社が最も多いです。

中期経営計画の初年度が年度利益計画に該当します。年度利益計画とは異なり月次展開までは必要ありませんが、年度利益計画と同一タイミングに同じ考え方で作成する企業が多く、月次展開されていることがほとんどです。2年目、3年目の詳細なアクションプランは不要で(また計画することも難しいと思います)、マイルストーンや年ごとの大きな目標などがあると良いです。

 

計画策定における留意点

実際に計画を立案するにあたっては、様々なことを勘案し作成する必要があります。

【策定における主な留意点】

  • ・事業、経済のマクロ環境は考慮されていますか?
  • その計画を実現する人員計画になっていますか?
  • ・KPIやパラメーターが上昇する計画を立てている場合、たとえば顧客の購入率が上昇するといった計画の場合、その上昇の根拠は明確ですか?
  • ・オフィス移転やスポット売上等イレギュラーなものであるが確実に実行されるものの予算計上漏れはありませんか?
  • ・法人税等について繰越欠損金等の影響はいつまで続くか加味されていますか?
  • ・売上構造式(たとえば(新規顧客数×単価+既存顧客数×単価」)に該当する経営指標等の予算も立てられていますか?
  • ・固定費と変動費とに分解し、それぞれの変動理由が明確となっていますか?
  • ・資金繰りについても考えられていますか?(先行投資が必要な事業の場合)
  • ・人件費の上昇分、離職、採用費等は考慮されていますか?
  • ・社外取締役や社外監査役の役員報酬は考慮されていますか?
  • ・上場に際し、主幹事証券会社、監査法人、印刷会社、証券代行、取引所への支払い費用は考慮されていますか?

なお、よく「絶対に予算は外してはいけないのですよね?」と聞かれることがあります。

確かに直前期以降は精度の高い予算の策定が求められます。これは上場後に予算を開示することになるので、実績と大幅に乖離した予算を開示することにより、成長性について投資家に誤った判断をさせる可能性がある、という観点からの要請です。

しかし、絶対に当たる予算をつくることは不可能です。

大切なのは予算策定時の前提を理解し、当該前提が当初の計画と乖離した場合には、何が原因で、予実の乖離を踏まえた今後の経営上のアクションプランはどのようなものがあるか、分析することで経営における意思決定の指針となる予算を策定することです。したがって、実績が予算を下回らないように過度に保守的な予算を策定するのではなく、しっかりと経営における意思決定をするために予算を策定してください。

また、上場企業の中でも予算を開示していない会社があります。これらの会社は予算を策定していないのではなく、開示をしていないだけです。取引所は、予算を絶対に開示すべきと定めているわけではありません。(しかし取引所は積極的に将来情報の開示を要請しています。)

予算を開示することで投資家に誤った投資判断をさせる可能性が高い事業を有している場合や、そのような経営状況の場合には開示を工夫し、たとえば「黒字化」といった定性情報での開示や、売上高のみの開示等も可能です。

 

予算統制の充実

予算は作成し取締役会で承認されたらそれで終わりではありません。毎月予算統制を行う必要があります。これは予算通りに事業が進捗しているのかを確認することはもちろんのこと、その内訳やKPIについて乖離状況を確認し、事業環境や社内において何らかの前提が変化していないかを把握するために重要です。

したがって、月次決算において主に以下の項目を予算統制として確認します。

これらを表であったりグラフでわかりやすく表現することで経営陣が将来のアクションプランを意思決定しやすいようにします

  • ・PLの単月予実差異とその原因分析
  • ・PLの累計予実差異
  • ・KPIや管理指標の単月予実差異とその原因分析
  • ・KPIや管理指標の累計予実差異
  • ・次月以降の具体的なアクションプラン
  • ・BS実績
  • ・その他定性的な特筆すべき報告(経営環境の変化や他社の動向など)
  • ・その他定量的な分析報告
  • ・(必要であれば)資金繰り
 

月次決算体制の整備

上記予算統制のためにも、上場企業ではタイムリーに自社の業績について把握できる体制を整備していなければなりません。そのため、月次決算のための体制を構築します。

請求書発行、請求書回収、人件費算出、仕訳などの一連の経理作業と、それらを報告資料に取りまとめ、各事業責任者より分析コメントを徴収する、このようなフローを構築する必要があります。

一般的には月次決算作成のため、3営業日以内に取引先からの請求書を回収するようにします。

これら一連の月次決算報告書類作成までの日数としては6〜8営業日を目指してください。それを経営陣が事前に閲覧し、取締役会出席者に配布し、10営業日前後で開催の取締役会にて報告される、という流れを実現する必要があります。

なお、子会社等を有する企業グループの場合は、企業グループの経営成績として連結月次決算を実施する必要があります。

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